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事例

医療・クリニックのAccess活用と移行|患者情報と院内管理の勘所

クリニック・医療機関の予約台帳・物品在庫・シフト・院内台帳でAccessが使われる典型パターンと4つの課題(要配慮個人情報の管理体制・属人化・バックアップ未設計・院内システムとの場当たり連携)、移行判断の5軸と移行前に確認すべき5点を実務パターンで解説します。

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結論:医療機関のAccessは「すきま業務」に根付いており、当社の経験では患者データの扱いが最大の懸念点

クリニックや中小病院でのAccessの使われ方は、電子カルテやレセプトコンピュータとは別の「すきま業務」に集中しています。予約台帳、物品・試薬の在庫管理、スタッフシフト管理、各種の院内台帳など、既製の医療システムでは賄いきれない業務を、担当者がAccessで補ってきたケースを当社ではよく見かけます。

問題の核心は、こうした「すきま業務」が扱うデータに、受診歴など個人情報保護法上の要配慮個人情報が含まれていることです。しかしその管理体制は、共有フォルダに置かれた1つのaccdbにパスワード1つ、というケースが珍しくありません。

この記事では、医療機関・クリニックでよく見るAccessの使われ方、そこで起きやすい課題、移行を考えるときの勘所を整理します。電子カルテの法的要件や医療情報システムの安全管理ガイドラインの個別条項には踏み込まず、当社が支援を通じて経験した典型パターンとしてまとめています。

医療機関でよくあるAccessの使われ方

当社が相談を受ける医療機関のAccessは、大きく4つの用途に分類できます。

用途典型的な構成当社がよく見る状態
患者名簿・予約台帳氏名・生年月日・連絡先・予約日時・担当医などを管理するテーブル電子カルテと別に「紙の補助」として始まり、気づけば独立した予約管理として定着している
物品・試薬・医療材料の在庫管理品目マスタ・入庫・出庫・残数計算クエリ・発注アラート担当者が自作した後、引き継ぎなしで使われ続けており、発注ルールがVBAに埋め込まれている
スタッフシフト・勤務管理スタッフ名・シフト区分・月次集計フォーム・Excelエクスポート勤怠ソフトとは別に「シフト調整用」として使われており、二重管理になっている
院内各種台帳医療機器点検記録・防災・感染対策・インシデント報告などの台帳監査・指導に備えて作られたが、入力ルールが属人化しており担当者交代で運用が崩れやすい

電子カルテやレセコンがあっても、こうした「周辺の記録業務」はカバーされないことが多く、Accessが「とりあえず作れる人」によって補われてきた経緯があります。結果として、患者の氏名や受診情報を含むデータが、院内の情報管理体制の外側にあるファイルで管理されている状況になりがちです。

医療機関Accessに当社がよく見る4つの課題

1. 要配慮個人情報を含むデータが、管理体制の外に置かれやすい

患者名簿や予約台帳が電子カルテとは別のAccessに入っているケースでは、そのファイルの管理体制が問題になります。Accessのデータベースパスワードはファイルの内容を暗号化しますが、ファイル自体のコピーを防ぐ機能ではありません。ファイルサーバー側のアクセス権設定でアクセス可能な利用者を絞ることはできますが、閲覧権限を持つ利用者によるコピーを防ぐにはDLPなどの別の対策が必要です。また、Access内で誰がどのレコードを閲覧したかという操作ログは、当社で確認した標準構成では自動記録されません。

受診歴や診療に関する情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当します。適切な安全管理措置が求められますが、具体的な技術的要件は各制度やガイドラインに応じて判断が必要です。当社の経験では、内部の情報セキュリティ点検を機に「院内の各部門が独自に作ったAccessに患者データが入っている」ことが初めて把握されたケースがあります。

アクセス権限の制御についてはAccessのパスワード保護はどこまで守れる?で詳しく解説しています。また、個人情報をAccessで管理するリスクの全体像は個人情報をAccessで管理するリスクにまとめています。

2. 「すきま業務」であるがゆえに担当者交代でリスクが顕在化する

患者名簿や在庫管理がAccessで動いていても、それが「誰かが自主的に作ったもの」である場合、その担当者が退職・異動したときに問題が出ます。どのフォームで何を入力するか、どのクエリが発注アラートを出すか、そもそもどこにファイルがあるかを知っているのが1人だけ、という状態は医療機関でも起きています。

当社の経験では、「前任の看護師長が作ったシフト管理のAccessがあるはずだが、どう使うか分からない」という相談が来ることがあります。こうした状態への対処はAccess属人化の危険度と脱・属人化の進め方を参考にしてください。

3. バックアップと事業継続の観点が後回しになりやすい

診療業務の継続に電子カルテが必要なことは医療機関も強く認識しています。ただし「すきま業務」のAccessについては、バックアップ設計が手薄なケースがあります。予約台帳が壊れて復元できない、在庫の発注基準値が消えた、という事態は診療に直接影響します。

当社の支援案件では、使用中に強制終了やネットワーク切断が起きてaccdbが破損した事例があります。複数のスタッフが同時に予約を入力するような使い方では、同時書き込みによる競合が発生することもあります。バックアップの設計については延命中のAccessを守るバックアップ設計で詳しく解説しています。

4. 院内システムとの連携が場当たり的になりやすい

電子カルテや会計システムとのデータ連携をExcelや手作業を介して行っているケースがあります。「電子カルテから患者リストをCSVで出して、Accessに手で貼り込む」という運用は、入力ミスや更新漏れのリスクを生みます。特に患者の氏名や保険情報の転記は、誤りが診療に影響する情報です。

こうした場当たり的な連携は、担当者が変わると手順が分からなくなります。当社の経験では、二重入力を解消しようとして初めてAccessの全体像を見直すきっかけになるケースが多いです。

移行を検討するときの判断基準

医療機関のAccessの移行を考える際、当社では以下の軸で状況を整理します。

判断軸現状維持が成立しやすい状況移行を検討すべき状況
データの性格物品名・数量など患者情報を含まない台帳患者氏名・連絡先・受診歴・個人属性が含まれる
アクセス権管理担当者1名だけが使い、他者はアクセスしない複数スタッフが参照・入力する。権限の分離が必要
担当者・保守体制VBAを読める担当者が社内にいる作れる・直せる人がおらず、引き継ぎも完了していない
バックアップ・事業継続定期バックアップがあり復元テストも実施済みバックアップが未設計、または壊れたときの対処が未定
監査・記録要件操作ログの提出を求められていない指導・監査でアクセス記録・操作履歴の提出が必要

医療機関特有の判断として、「このAccessに患者情報が含まれているかどうか」の確認は早期に行う価値があります。「すきま業務のExcel代替のつもりで使っていたが、結果的に患者データが入っていた」という認識のズレが、当社の経験では一番多いパターンです。

現状のAccessがどういった構造になっているかを把握したい場合は、無料の解析可否チェックから現状整理を始めることもできます。

Access 2021のサポート終了は2026年10月13日です。患者情報を含む院内システムの見直しは準備に時間がかかることが多く、余裕を持ったスケジュールが必要です。

移行先の選択肢と医療機関特有の注意点

医療機関のAccessの移行先を選ぶ際、当社の経験から見た傾向を整理します。

患者情報を含まない物品在庫や院内台帳は、kintoneやPower Appsへの移行が選択肢になります。kintoneでは入力フォームや参照権限の設定が比較的容易で、スタッフ間の台帳共有に向いています。ただし既存のAccessに複雑な計算ロジックや帳票がある場合は、再現コストの確認が必要です。

患者情報を含むデータの移行先は、アクセス権の細かい制御と操作ログが取れる構成が求められます。SQL Serverをバックエンドに採用する構成では、利用者ごとの認証・権限・監査ポリシーを設計・設定することでデータ保護を強化できますが、設計と設定は別途必要です。この構成の概要はAccessの画面はそのまま、データだけSQL Serverへ移す構成で解説しています。

電子カルテやレセコンと連携が必要な場合は、移行先と既存システムのAPI・CSV連携の可否を事前に確認する必要があります。既製の医療向けシステムへの移行も選択肢ですが、対応範囲・ライセンス費用は製品によって異なるため個別に確認が必要です。移行先の比較についてはAccessの移行先を比較で整理しています。

移行前に確認しておくべきこと

医療機関のAccess移行で、後から問題になりやすい点を当社の経験から挙げます。

  • 患者情報の有無と範囲:どのテーブルに患者氏名・連絡先・受診情報が含まれているかを最初に確認します。「患者は入力していない」と思っていたAccessに、実は予約者の氏名と連絡先が入っていたケースがあります。
  • 電子カルテ・レセコンとの連携経路:CSV書き出し・手動転記・API連携など、既存の連携方法を文書化しておきます。移行後に「この連携がなくなると困る」と分かっても、後から設計し直すのはコストがかかります。
  • VBAに埋め込まれた業務ルール:在庫の発注基準値・シフトの計算ルール・台帳の集計条件など、業務ルールがVBAに暗黙に入っていることがあります。移行前に文書化しておかないと、移行先で同じ動作を再現できません。
  • バックアップの現状:移行作業中もAccessを使い続ける期間があります。その間にファイルが壊れた場合の対処を事前に決めておくことが必要です。
  • 院内の承認プロセス:患者情報を含むシステムの変更は、院内の情報管理責任者や経営層の承認が必要な場合があります。移行プロジェクトの立ち上げ前に確認しておくと、後から作業が止まるリスクを避けられます。

これらの洗い出しは移行前の業務フロー調査で行います。調査の進め方はAccess移行前の業務フロー調査に整理しています。

よくある質問

Q. 予約管理や患者名簿をAccessで管理していますが、どのくらい問題がありますか。

データの性格と管理状況によって判断が変わります。患者の氏名・連絡先・受診情報が含まれる場合、Access単体の標準構成では利用者ごとのレコード閲覧履歴は自動記録されません。ファイルサーバーのアクセス権設定でアクセス可能な利用者を絞ることはできますが、閲覧権限を持つ利用者によるコピーを防ぐにはDLPなどの別の対策が必要です。「使えているから問題ない」ではなく、「誰がアクセスできるか」「操作の記録をどこで取るか」を確認するところから始めることを当社では勧めています。

Q. 電子カルテがあるのに、なぜAccessが残っているのですか。

電子カルテは診療記録・処方・検査指示などに特化したシステムで、在庫管理や院内台帳、スタッフシフトといった業務はカバーしていないことが多いです。既製の医療向けオプションが高コストだったり、小回りが利かなかったりする場合に、「とりあえずAccessで」という選択がされてきた経緯があります。当社の経験では、電子カルテ導入後もAccessが10年以上使われているケースは珍しくありません。

Q. 院内の物品在庫や台帳だけなら、Accessのまま使い続けても問題ないですか。

患者情報を含まない物品在庫や点検台帳であれば、データの性格としては延命が成立しやすい用途です。ただし、担当者の属人化・バックアップの未設計・Access 2021の2026年10月13日サポート終了という要素は同様に当てはまります。延命するかどうかの判断は、データの重要度と保守体制を合わせて検討する必要があります。

Q. 院内のAccessを棚卸ししたいが、どこから始めればよいですか。

まずどの部門に何の目的でAccessが存在するかを把握することが先決です。電子カルテ・レセコン以外のシステムを担当している事務・看護・医療技術スタッフに「Accessやそれに類するファイルを使っているか」をヒアリングするところから始めます。把握できたら患者情報の有無・利用人数・担当者の退職リスクを確認して優先順位をつけます。棚卸しの手順はAccess属人化の危険度と脱・属人化の進め方も参考になります。

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